借金ゼロは最強じゃない?中小企業における実質無借金経営のすすめ

金村
「無借金経営」と「実質無借金経営」を相対的に比べてみると、「実質無借金経営の会社のほうが非常時に強い」と、私は考えています。メリットとデメリットなどまとめてみました。

儲かる会社より潰れない会社

今のような激動の時代において「何があっても潰れない会社」をつくることは、社長としての最大の責務ではないでしょうか。その絶対条件が、意外にも「金融機関から融資を受けること」だとしたら、驚かれるかもしれません。一見矛盾するようですが、これこそが経営の安定性と成長性を両立させる重要な戦略なのです。

今回は、「実質無借金経営」という考え方について、その意味と利点、そして実践方法を詳しく解説していきます。この概念を理解し、適切に実行することで、御社の経営基盤を大きく強化できる可能性があります。

無借金経営のメリット・デメリット

まずは、「無借金経営」と「実質無借金経営」の違いを、それぞれのメリットとデメリットを通じて明確にしましょう。

「無借金経営」とは、
有利子負債(銀行からの借入れや社債など、利子を支払わなければならない借金)がない経営状態のこと。借金がなく、「現時点」での経営が安定している。

メリット①:金利負担の解消

借入金がないため、利子の支払いがありません。この分の資金を設備投資や研究開発、従業員の待遇改善など、事業成長のために活用できます。

メリット②:心理的プレッシャーの軽減

借金返済の義務がないため、経営者は精神的に楽な状態で経営に専念できます。これにより、より長期的かつ戦略的な意思決定の視野が広がります。

メリット③:高い自己資本比率

負債がないため、自己資本比率が高くなります。これは財務的な安全性を示す重要な指標であり、取引先や金融機関からの信頼度向上につながります。

メリット④:経営の自由度

金融機関への依存度が低いため、外部からの干渉を受けずに自由な経営判断が可能です。例えば、一時的に収益が低下しても、長期的な視点で投資を継続するなどの判断ができます。

デメリット❶:現金流動性の危機

利益が出ていても、資金繰りが悪化すると黒字倒産の危険性があります。例えば、売掛金の回収が遅れる一方で、仕入れや給与の支払いは待ったなしという状況では、たちまち資金ショートに陥る可能性があります。

デメリット❷:緊急時の脆弱性

予期せぬ事態(自然災害、パンデミック、急激な為替変動など)に対して、即座に対応できる資金が不足する可能性があります。2020年の新型コロナウイルス感染症の流行は、多くの企業にこの脆弱性を痛感させました。

デメリット❸:融資の困難

いざという時に融資を受けようとしても、借入実績がないため審査に時間がかかったり、条件が厳しくなったりする可能性があります。特に、業績が悪化してから融資を申し込むと、条件はさらに厳しくなります。

デメリット❹:成長機会の損失

手元資金だけで運営していると、大型の設備投資や事業拡大の機会を逃す可能性があります。競合他社が融資を活用して成長する中、取り残されるリスクがあります。

実質無借金経営のメリット・デメリット

「実質無借金経営」とは、
有利子負債を抱えているが、それを十分に上回る利益があり、キャッシュ(現金や預金、短期の有価証券など)を保有している経営状態のこと。借金はあるが、資金繰りが安定している。現時点の経営が安定していると同時に、将来のリスクも少ない状況。

メリット①:安定性と柔軟性の両立

借入金を即時返済できる資金を持ちつつ、運転資金も十分に確保できます。これにより、急な支出にも対応でき、同時に事業拡大の機会も逃しません。例えば、好条件の M&A 案件が浮上した際にも、迅速に資金を調達して対応することができます。

メリット②:リスク対応力の向上

十分な手元資金があることで、市場の変動や予期せぬ事態にも柔軟に対応できます。例えば、原材料価格の急騰時に大量仕入れを行うなど、戦略的な判断が可能になります。また、一時的な業績悪化にも耐えられる体力がつきます。

メリット③:成長投資の機会

適切な借入と十分な手元資金を組み合わせることで、大型の設備投資や研究開発投資を実行しやすくなります。これにより、中長期的な企業成長を実現しやすくなります。

メリット④:事業集中

資金繰りの心配が減ることで、本業により注力できます。経営者のエネルギーを、新商品開発や顧客サービスの向上など、本質的な経営課題に向けられるようになります。これは長期的な企業価値の向上につながります。

メリット⑤:金融機関との良好な関係構築

定期的な借入と返済を通じて、金融機関との信頼関係を築くことができます。この信頼関係は、将来のより大きな融資や、緊急時の支援を受ける際に非常に重要になります。例えば、業界全体が不況に陥った際にも、優先的に支援を受けられる可能性が高まります。

また、月商の3倍の普通預金を確保しておけば、銀行は「この会社は、支払い能力がある」「この会社はキャッシュポジションがいい(手持ちの現金がたくさんある)」と判断するため、融資を受けやすくなる。

メリット⑥:税務上のメリット

支払利息は経費として計上でき、法人税は利子を差し引いたあとの利益に課税されるため、実質無借金経営は節税対策にもなる(利子を支払った分だけ、法人税を減らせる)。

デメリット❶:金利負担

借入金に対する利息の支払いが必要となります。金利が高騰した場合、この負担が重くなる可能性があります。ただし、手元資金が十分にあれば、状況に応じて借入金を返済することも可能です。

デメリット❷:心理的プレッシャー

借金の存在自体が経営者に精神的な重圧を与える可能性があります。ただし、これは健全な財務管理の一環であることを理解し、過度に心配する必要はありません。

デメリット❸:自己資本比率への影響

借入金が多くなると、自己資本比率が低下し、金融機関の格付けに影響する可能性があります。ただし、手元資金が十分にあれば、実質的な財務健全性は保たれています。

まとめ

結論として、「実質無借金経営」は、中小企業が安定性と成長性を両立させるための有効な戦略といえます。現在の経営状態を安定させるだけでなく、将来のリスクに対する備えも強化できるのです。

毎年決算前に社長自身が自社の財務状況を見直し、「実質無借金経営」の実現可能性を検討してみる。これを実践するだけで、予測不可能な経済環境の中で、自社を「何があっても潰れない会社」に近づける大きな一歩となります。財務の安定は、新たな挑戦の基盤となり、ひいては企業の持続的な成長と発展につながります。


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