中小企業経営では、人間心理を無視した経営は上手くいきません。社員の心理プロセスとして『正面の理・側面の情・背面の恐怖』の3つのバランスを保ちながら、強い企業文化をつくることは欠かすことができません。
方針の継続性:成功への道筋
中小企業経営では、同じことの9割が繰り返しからできています。成功している会社の経営者は、毎年決算期が近づくと、静かな環境に身を置き、次期の経営計画を練り上げます。注目すべきは、これらの計画の80〜90%が前年度の方針を引き継いでいるということです。
なぜ前年度の方針のほとんどが引き継がれるのか?その理由は経営の本質に深く根ざしています。
1. 経営の安定性
経営とは、その本質において、前年上手く行ったことを繰り返し、上手くいかなかったことを改善する。このように改善や改革を繰り返し重ねていくことが重要です。また、突然の大きな変更は、社員と組織に混乱をもたらす可能性があります。
2. 学習と成長のプロセス
組織の能力開発において、繰り返し行うことはとても需要です。初めてのことは上手くいく確率は極めて低く、新しい方針や戦略を導入する際、最初から完璧に実行できることはまれです。時間をかけて繰り返し実践することで、組織全体がその方針に習熟し、真の力を発揮できるようになります。
3. 長期的視野
成功する中小企業の経営者は、短期的な変化に一喜一憂せず、長期的な視点で会社の成長を見据えています。方針の継続性は、この長期的視野の現れと言えるでしょう。
したがって、経営計画の大部分が前年を踏襲することは、単なる惰性ではなく、むしろ望ましい姿勢なのです。ただし、社会環境の変化や新たな機会に対応するため、10〜20%の新規要素を取り入れることも忘れてはいけません。
人を動かす3要素:理・情・恐怖の調和
効果的な経営において、人材の適切な管理と動機づけは不可欠です。この点で、古来より伝わる「人を動かす3要素」という考え方が非常に有用です。これは「正面の理」「側面の情」「背面の恐怖」という3つの要素から成り立っており、それぞれが重要な役割を果たします。
1. 正面の理:論理的説得
「正面の理」とは、論理的かつ合理的な説明や指示を意味します。これは、組織の方針や決定事項を社員に伝える際の基本となります。
明確な方針提示:会社の目標や戦略を明確に示し、各社員の役割を具体的に説明します。
透明性の確保:意思決定のプロセスや理由を開示し、社員の理解と納得を得ます。
公平性の維持:すべての社員に対して公平かつ一貫した基準で接することで、信頼関係を構築します。
2. 側面の情:感情的つながり
「側面の情」は、社員との感情的なつながりを築き、維持することを指します。これは単なる友好関係以上の、深い相互理解と配慮を意味します。
個々の社員への関心:各社員の個性や状況を理解し、適切なサポートを提供します。
コミュニケーションの充実:日常的な対話を通じて、社員の声に耳を傾け、信頼関係を深めます。
評価と認識:社員の努力や成果を適切に評価し、認めることで、モチベーションを高めます。
3. 背面の恐怖:適度な緊張感
「背面の恐怖」は、社員に適度な緊張感を与え、責任感を持って行動するよう促す要素です。ただし、これは過度な圧力や脅迫ではなく、健全な危機感の醸成を意味します。
明確な基準設定:パフォーマンスの基準を明確にし、それを達成できない場合の結果を示します。
公正な評価システム:客観的な評価基準を設け、その結果が処遇に反映されることを明確にします。
自己啓発の促進:自己改善の必要性を認識させ、成長への意欲を喚起します。
3要素の適切な順序とバランス
これら3つの要素を効果的に活用するためには、適切な順序とバランスが不可欠です。
1. まず「理」で方針を示し、
2. 次に「情」で社員との関係性を築き、
3. 最後に「恐怖」で適度な緊張感を与える
この順序を守ることで、社員は会社の方針を理解し、それに共感し、そして責任を持って行動するようになります。
社長のタイプと組織への影響
社長の性格や経営スタイルによって、これら3要素のバランスが崩れることがあります。それぞれのタイプと、その影響を見てみましょう。
「理」が強い社長
特徴:論理的思考が強く、方針や規則を重視します。
長所:明確な方向性を示し、組織を効率的に運営できます。
短所:感情面での配慮が不足し、社員のモチベーション低下を招く可能性があります。
改善点:「情」の要素を意識的に取り入れ、社員との心理的距離を縮める努力が必要です。
「情」が強い社長
特徴:社員との良好な関係性を重視し、親しみやすい雰囲気を作ります。
長所:社員のモチベーションを高め、良好な職場環境を築けます。
短所:厳しい決断や改革が必要な際に躊躇する傾向があります。
改善点:「理」の要素を強化し、感情に流されない冷静な判断力を養う必要があります。
「恐怖」が強い社長
特徴:厳しい管理と規律を重視し、プレッシャーを与えることで組織を動かそうとします。
長所:短期的には高いパフォーマンスを引き出せる可能性があります。
短所:長期的には社員の疲弊や離職率の上昇を招きやすいです。
改善点:「理」と「情」の要素を積極的に取り入れ、バランスの取れたリーダーシップを目指す必要があります。
理想的な組織づくり:「理」で動く文化の醸成
最終的に目指すべきは、「理」で動く組織文化の構築です。これは一朝一夕には達成できませんが、以下のステップを踏むことで徐々に実現できます。
1. 明確な方針と価値観の共有:会社の方針や価値観を明確に定義し、全社員に浸透させます。
2. 透明性の高い評価システム:「理」に基づいた行動を適切に評価し、昇進や報酬に反映させます。
3. 継続的な教育と啓発: 社員が「理」に基づいて考え、行動するための教育プログラムを実施します。
4. リーダーシップの模範:経営陣自身が「理」に基づいた意思決定と行動を実践し、模範を示します。
5.柔軟性の維持:「理」を重視しつつも、状況に応じて「情」や「恐怖」の要素を適切に取り入れる柔軟性を持ちます。
このような取り組みを通じて、徐々に「理」で動く社員が増え、最終的には「情」や「恐怖」に頼らずとも、自律的に動く理想的な組織が実現されるのです。
バランスの取れた経営哲学の実践
経営において、方針の継続性と「理・情・恐怖」の3要素のバランスは、組織の健全な成長と発展に不可欠です。これらの原則を経営計画書に明確に反映させ、日々の経営実践の中で意識的に適用していくことが重要です。
そうすることで、社員一人ひとりが会社の方針を理解し、自発的に行動し、組織全体が一丸となって目標に向かって進んでいく強固な企業文化を築くことができるのです。これこそが、「潰れない会社」の基盤となるのです。
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