高校野球での金足農業高校(秋田)が躍進している。18日(土)の準々決勝第4試合で、1点を追う状態で9回を迎え、9回の裏無死満塁から2ランスクイズで逆転のサヨナラ勝ちした。その試合を生でテレビで観ていて、その一瞬の出来事に時が止まった。
『監督もかなり大胆な作戦をするものだ』と思っていたが、1日経って新聞などの情報を見ていると、監督は手堅く『まず1点で同点』と考えていて、2ランスクイズに気づいておらず、気づいたのは2塁ランナーがホームベース間近まで来たところで初めて知った。選手たちの判断がそうさせたと話している。
圧倒的な練習量が大舞台での自信を生む
この2ランスクイズが成功した要因は何か?
まず、スクイズを成功させた9番の斎藤選手。詳しいことはわからないが、普通は無死満塁でのスクイズは凄く難しいらしい。しかし、この斎藤選手のバントの精度はチームでもトップレベルらしく、監督はこの難しい状態で練習からずっと見てきた彼のこの精度に掛けた。結果、最高のスクイズは3塁側に見事に成功した。
日頃から相当量のバント練習をしている。もちろん全選手だ。部員も多くいる中で、それだけの練習量をこなすことで精度が上がり、それがいつしか選手の自信となり、この大舞台で成功することができる。斎藤選手自身、必ず成功させることができるという自信があったと話している。
そして、逆転のランナー2塁の菊池選手。彼はチーム一の俊足の選手。菊池選手はサインでスクイズと決まった瞬間から、2ランスクイズを狙ってその準備を整えていた。だからこそ、スクイズがされた後、一瞬の躊躇もなくホームに向かい全力疾走することができたのだろう。
『個の強み✖︎師の教え』が迷いを断つ
なぜ2塁ランナーの菊地選手はホームまで狙ったのだろうか。
5回からマウンドに上がった相手投手を打ち崩せていなかった事、そして、連日一人で投げ切っている見方の吉田投手の疲労も考えると、延長戦に突入しても厳しい状況は変わらなかった。このような状況を肌感覚で感じ、さらに球場の異様な空気が後押ししたのだろう。
さらに常日頃から監督によって『次の塁を狙う姿勢』を植え付けられていた。同監督が現役時代、恩師から『一塁より二塁。二塁より三塁。それがホームだろうと同じ』と教えられていたことを選手たちにも教えていた。このような日頃からの監督から選手たちの教えが、今回のような積極的なプレーを生んだとも言える。
2塁ランナーの菊池選手以外、誰も予想していなかったこのプレー。敵チームは、もちろんこの想定外のプレーに対応することができなかった。
異様な空気の球場が歯車を狂わす
想定外のプレーの前から甲子園には異様な空気が流れていた。9回裏の金足農がヒットを2本、さらに、四球が出るたびに、観客席から大きな歓声が湧き、1球1球にざわめきが大きくなっていったと相手の林投手が話している。すでに『冷静な判断ができていなかった』と。
そのような球場の異様な雰囲気の中で、想定外のプレーが行われたことで、リプレイを見てもわかるが、1つ1つのプレーがコンマ数秒ずつ遅れていることがわかる。通常は聞こえるはずの3塁野手の『行った!』と言う声も、無情にも観客の声にかき消されていた。
8月8日に生まれて初めて甲子園球場での高校野球を体験した。その時3試合観戦したが、高校野球が見たかっただけで贔屓にしているチームは無かった。そのような事もあり、試合によっては最終回に近づくに連れて、もつれた試合展開になってくると観客は試合を面白くしてくれるチームを応援する。ということは、負けているチームを応援するということだ。
アルプススタンドの応援団のリズムに合わせて、観客の一人が何気無くうちわを叩く。知らず知らずのうちに隣の観客も叩きはじめる。この連鎖がだんだんと大きくなり、球場全体が異様な空気になる。甲子園で観戦した最終戦で、私自身が無意識のうちに周りのリズムに合わせてうちわを叩いていた。
当日は準々決勝。球場全体の異様な雰囲気が追い風になり、この奇襲とも言える2ランスクイズを成功させたのだろう。
奇跡は準備をした諦めの悪い人に訪れる
このように背景にある様々なことを知れば知るほど、今回の2ランスクイズは偶然でも奇跡でもなく、選手たちにとっては想定内の1つの選択枠だったのではないだろうかと思う。
日頃から努力している人にしか奇跡は起こらない。そして、神様は諦めの悪い人を応援する。
選手の長所を活かす作戦、選手が大舞台で自信となるほどの練習量、そして、選手たちの行動のベースとなる日頃からの、前監督からの教え。私たち社長としても学ぶべきところが多い試合だった。